古代鈴鹿とスズカ姫(2)

前回の「古代鈴鹿とスズカ姫」では、三重県鈴鹿市が非常に古代遺跡の多い土地であることを簡単にご紹介しました。

しかし、全国に数ある遺跡地帯に比べるとその認知度はあまり高いと言えません。私も最近になって調査を始め、初めてこの事実を認識するに至りました。

一般的に鈴鹿の歴史スポットと言えば、観光パンフレットにもあるように、市の北西部、鈴鹿山脈の麓にある椿大神社(つばきおおかみやしろ)を思い出す方がほとんどでしょう。ここは、10年位前にスピリチュアリストの故船井幸雄氏によってパワースポットとして紹介されたことで多くの人に広まったと聞いています。

画像1:観光パンフレットに紹介された鈴鹿の歴史スポット

前回はこの有名ポイントについて殆ど触れていなかったので、まずは椿大神社についてご紹介したいと思います。

■猿田彦大神の社に祀られたスズカ姫

この4月に訪れた時はあいにく雨にたたられ、あまり良い写真が撮れませんでした。以下掲載する写真は、昨年10月に現地を訪れた時のものであるとお断りしておきます。

画像2:椿大神社の参道入口

椿大神社本殿に向かう参道の鳥居の前に立つと、大きく育った木が参道を挟み、そこそこ厳かな雰囲気を醸し出しています。

画像3:椿大神社の御祭神

撮影日は日差しが強く、画像3の御由緒書きが良く読み取れません。ここに祭神の名を書き出すと次の様になります。

 主祭神 猿田彦大神 (さるたひこおおかみ)
 相殿神 皇孫 瓊々杵尊 (ににぎのみこと)
     御母 栲幡千々姫命 (たくはたちちひめのみこと)
 前 座 行満大明神 (ぎょうまんだいみょうじん)

はい、既にここで、本ブログで行ってきたアニメ映画「千と千尋の神隠し」の構造分析で、主人公「千尋」の歴史上のモデルとして推定される栲幡千々姫こと「スズカ姫」の名前が見られるのです。もちろん、その姫神について調べるためにここを訪ねた訳なのですが。

そして、参道の左右に摂社や古墳、祭場を見ながら直進すると、入道ヶ岳(にゅうどうがたけ)あるいは高山を後背に、そこには立派な本殿が現れます。

画像4:椿大神社本殿

4月の調査では、雨にも拘わらず多くの方々が参拝に来られており、ここが人の集まる人気パワースポットなのだと実感されます。もちろん、本当にパワースポットなのかどうかは私には分かりませんが。

さて、猿田彦の名前が登場する以上、伊勢の猿田彦神社同様、その相方となった女神、猿女(さるめ)こと天鈿女(あめのうずめ)もどこかに祀られているはずなのですが、わざわざ探すまでもなく、本殿の東側に隣接するスペースに「椿岸(つばきぎし)神社」が置かれており、そこに天鈿女が祀られていました。

画像5:椿岸神社

さて、ここで椿岸神社の祭神について少々疑問が湧いてきます。

猿田彦・天鈿女は一対の夫婦神として考えられていますし、瓊々杵尊も天孫降臨の際に猿田彦に先導されたと神話にありますから、ここに祀られていてもおかしくありません。

しかし、いくら身内とはいえ、その母である栲幡千々姫(別名スズカ姫)まで合祀されるのはさすがにその理由が何であるのか気になります。その理由については、椿大神社の公式ページに次の様に書かれています。

人皇第11代垂仁天皇の御代27年秋8月(西暦紀元前3年)に、「倭姫命」の御神託により、大神御陵の前方「御船磐座」付近に瓊々杵尊・栲幡千々姫命を相殿として社殿を造営し奉斎された

https://tsubaki.or.jp/yuisyo/

つまり、倭姫(やまとひめ)のご神託により合祀さたということのようです。

これに加え、もう一柱の行満大明神については。椿大神社の公式ページには次の様に書かれています。

大神の神孫「行満大明神」は修験神道の元祖として、本宮本殿内前座に祀られ、役行者を導かれた事蹟など、 古来「行の神」として、神人帰一の修行・学業・事業・目的達成守導のあらたかな神として古くより尊信されております。

https://tsubaki.or.jp/yuisyo/

要するに、猿田彦の子孫で修験神道を開いた神様(人?)ということのようなのですが、境内には「高山土公神陵」という(おそらく)古墳があり、「土公」(とのこう)は猿田彦の子孫とも言われてますから、猿田彦の子孫が行満大明神としてここに祀られても、特に違和感はありません。

しかし、秀真伝(ほつまつたえ)の研究者、池田満氏の解釈によると、スズカ姫とこの地との関係性は、これとはずい分違うようなのです。

(1) 物欲に拘泥しない生き方をススカ(スズカ)という。

人が生活していると、何によらず欲しい欲しいと物欲にかられることが多い。しかし本来、人とは、そのタマシヰのタマはアメの中心から来たって、また元へ戻るのであるから、必要以上の物欲に取りからめられてしまうのは愚かなことといえる。物欲から自由になるこの考え方をススカ(スズカ)という。物欲に取りつかれ過ぎると、本来の人の幸せを 見誤ってしまい、楽しむことができなくなる。また他人の羨みを買ってしまうことになる。

物欲にとりつかれた状態をスズクラという。ススカ(スズカ)の考え方を解いたフミをススカノフミという。

(2) 九代アマカミのオシホミミのキサキ(后)となった、タクハタチチヒメのイミナをスズカヒメという。

アマテルカミから名付けてもらったこのスズカの名は、(1)の意味を受けていた。チチヒメの夫となった九代アマカミのオシホミミは比較的若くしてこの世を去ったため、チチヒメは義父のアマテルカミの老後をお世話することになる。伊勢神宮の内宮に相殿神(あいとののかみ)として萬幡豊秋津姫命(タクハタチチヒメのこと)が祭られているのは、その故である。そしてチチヒメの崩御に当たっては、現、三重県鈴鹿市坂下の三子山に亡骸が納められ、スズカノカミと尊称されて、後に片山神社としてまつられてゆく。

池田満著 ホツマ辞典

これを読むと、スズカ姫が同地と関係を持つのは、鈴鹿市内(現在の鈴鹿峠の近く)に亡骸が納められたという事だけで、「スズカ」の名の由来についても、秀真伝にある猿田彦の別名「ウツクシキスズ」との関係には特に触れられておらず、椿大神社との関係性も含め、猿田彦とは直接関係あるようには説明されていません。やはり、倭姫のご神託一つで合祀が決まったのでしょうか?

故事伝承の類は文献によって中身が大きく異なるものですが、ここでは、少なくとも鈴鹿という土地とスズカ姫の間にはなんらかの所縁があると、ざっくりと捉えておく方が良いかもしれません。

■丹生と椿大神社

前回の記事では鈴鹿周辺の地形図を掲載しましたが、そこから、椿大神社の周辺を次に切り出します。

画像6:椿大神社周辺の地形図

この図で注目するべきなのは、椿大神社の北側の尾根を越えたすぐその先に、旧水沢(すいさわ)鉱山があることです。

この水沢鉱山から採取されていた鉱物とは

 丹生(にう)

すなわち水銀(Hg)なのです。

丹生と言えば、白粉(おしろい)の原料、あるいは鳥居などに塗られる朱(しゅ)など顔料としての利用、あるいは大仏などのメッキ用素材として、古くから利用価値の高い鉱物として知られています。

水俣病やイタイイタイ病など、現在では水銀に毒性があるのは良く知られた話ですが、昔は不老長寿の秘薬として、朱が丹薬・仙薬として飲まれていたそうですから何とも恐ろしい話です。

実際に、水沢鉱山から流れる内部(うつべ)川は丹生毒に汚染され、水銀由来の奇病に河川周辺の住民が苦しんだと言う記録もあるようなのです。

私が指摘したいのは、椿大神社が現代のスピリチュアリストが言うような神聖なパワースポットとして初めから創建された土地なのかと言う疑いなのです。

今も昔も人には生活があり、その中でも利用価値の高い丹生鉱山の発見はその土地に住む人々の生活を大きく変え、その土地を巡る権益やそれを巡る争いなどを生じさせたと考えられるのです。

つまり、椿大神社がある場所とは、元々は水沢鉱山利権を巡る勝利者一族の権威を象徴する土地だったのではないかと考えるのです。この土地が丹生によって成り立っていたと考えられる一つの証左として、椿大神社の後背の山が

 入道ヶ岳=にうどうがたけ

と書けることがあります。

このように、丹生の生産こそが古代鈴鹿の性格を決定付ける重大因子ではなかったのかと想定する方が、より現実的に鈴鹿の古代の様相を理解できるのではないでしょうか。

さて、丹生が登場したところで、次に考えるべきは丹生とスズカ姫がどのように関係してくるのかという点です。

もしかしたら全く関係などないかもしれませんが、ここで再び「千と千尋の神隠し」を観返すと、次のシーンがスズカ姫と鈴鹿を繋ぐヒントになると考えました。

画像7:千尋に偽金(ニセキン)を渡すカオナシ

これがどういうことなのか、詳しくはメルマガで解説したいと思いますが。ヒントとしてWikipediaから次の一節を引用します。

賢者の石

錬金術における最大の目標は賢者の石を創り出す(あるいは見つけ出す)ことだった。賢者の石は、卑金属を金などの貴金属に変え、人間を不老不死にすることができる究極の物質と考えられた。また後述の通り、神にも等しい智慧を得るための過程の一つが賢者の石の生成とされた。

 (中略)

この作業で材料は黒、白、赤と色を変える。賢者の石は、赤くかなり重い、輝く粉末の姿であらわれるとされた。この賢者の石を、水銀や熱して溶かした鉛や錫に入れると大量の貴金属に変じたという。赤い石は卑金属を金に、白い石は卑金属を銀に変えるとされた。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8C%AC%E9%87%91%E8%A1%93


赤石青石白い石、緑の石は奴奈川の石
管理人 日月土


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