前々回の記事「素戔嗚と牛頭天皇」では、日本神話の三貴子の一人で、なお且つ神話のヒーロー的存在である素戔嗚(すさのお)が、仏教説話に登場する牛頭天皇(ごずてんのう)と同一視されているというお話をしました。
そして、日本書紀の一書の中に、素戔嗚が新羅(しらぎ)の「曾尸茂梨」(そしもり)と言う土地に降り立ち、その「ソシモリ」という言葉が韓国語で
牛頭
を意味するという点を指摘しました。
■神農と牛頭
炎帝神農(えんていしんのう)とは、古代中国の「殷」(いん)や「夏」(か)の時代より前の三皇五帝時代の統治者の一人と伝えられている人物で、様々な説はあるものの、一般には医薬と農業の神として知られています。
日本でも、大阪の他東京の湯島聖堂に神農廟があり、毎年11月23日の新嘗祭と同じ日に「神農祭」というお祭が行われているようです。
さて、その神農ですが、Wikiペディアによるとその風貌について次のように書かれています。
伝説では炎帝と黄帝は異母兄弟であり、『国語』には、
炎帝は少典氏が娶った有蟜氏の子で、共に関中を流れ
る姜水で生まれた炎帝が姜姓を、姫水で生まれた黄帝
が姫姓を名乗ったとある。また『帝王世紀』には、神農は、母が華陽に遊覧の際、
Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E8%BE%B2
龍の首が現れ、感応して妊娠し姜水で産まれ、体は人間
だが頭は牛の姿であった。火の徳(木の次は火であるこ
と、南方に在位すること、夏を治めること)を持ってい
たので炎帝とも呼ぶ。とある。
この「頭は牛の姿」という下りはまさに「牛頭」そのものなのですが、高句麗(現在の北朝鮮)の言葉では神農のことを
スサ
と呼ぶらしいので、ここでも牛頭天皇と素戔嗚の間に見られた関係が古代の言葉を通して繋がってくるのです。

上の画像では、頭に瘤にも見える牛の様な角を生やした、草を食みつつ薬草になるかどうかを試している神農の姿(想像図)が描かれています。
この極めて特徴的な「牛の頭」というキーワードを用いて、これまで出てきた人物の呼び名を並べると
神農(中国)
スサ (高句麗)
ソシモリ(新羅)
素戔嗚(日本)
牛頭天皇(中央アジア?)
となり、これらは同じ一人の人物(あるいは神)を指すのではないかと考えると、牛の頭の王(あるいは皇・帝)とは、アジア地域に広く行き渡っていた一人の偉大な王の伝承を表しているのではないかと考えられるのです。
しかし、やはりここで忘れてならないのは、次のシュメール文明の円筒印象に見られるデザインなのです。

牛頭の王が各国伝承それぞれの共通のシンボルであるならば、その範囲は東端の日本から始まり、朝鮮半島、東アジア・中央アジアを通り越して西アジアのチグリス・ユーフラテス川流域(シュメール文明の地)にまで及ぶことになるのです。
古代期文明の広がりをそのように捉えると、素戔嗚はもはや日本国内だけのローカルな神話的ヒーローに留まらなくなってくるのです。
■東京で見つかったシュメールの象徴
歴史言語学を研究されている川崎真治さんの著書「日本最古の文字と女神画像」(1988 六興出版)の中では、次の様な文様が刻まれた線刻石が東京の町田市で見つかったとの報告が書かれています。

画像の中に書き込んでいますが、牛頭と蛇のペアであること、七枝樹の枝の数である3(王)、2または4(女王)までもが画像2のシュメールの紋章と構図がそっくり同じなのです。
これまで、日本古代史の分析作業はあくまでも記紀やその他の史書、漢書等の記述に頼ってきましたが、ここまで明確な類似点を見せつけられると、分析手法について再考する必要が出てきました。
神話ヒーローの素戔嗚がいったいどのような王であったのか、そして古代世界がどのようなものであったのか、新たな実像が見えて来そうです。
■多摩川流域の遺跡地帯
前節の線刻石は町田市で見つかったものですが、町田市は丘陵部が多く石器時代からの遺跡が数多く見つかっている土地でもあります。

町田デジタルミュージアムから
そこと、前回の記事「ソシと祖師と世田谷事件」でお伝えした世田谷区の祖師谷とは直線距離で10km程度しか離れていません。そして2つの場所の間には多摩川が流れており、まさに古代人が好んで居住しそうな条件が揃っています。

祖師谷の祖師(そし)とはソシモリのソシ、すなわち素戔嗚と何か関係があるのではないかとしましたが、それほど離れていない町田で「牛頭と蛇」の文様が見つかったということは、言葉の類似性に加えて物的にもに説得力が増したように感じられます。
東京と言えば大都会で、古代遺跡と関係なさそうですが、これまでの現地調査では、多摩川周辺、例えば川崎や大田区などにも、多くの古代の痕跡が残っているのを確認しています。
どうやら、東京からもう一度古代史を見直す必要がありそうです。
管理人 日月土