初めに、今回の記事はメルマガ124号(令和7年4月16日号)の記事解説に掲載した 「『千と千尋の神隠し』再び」を再構成したものであることをお断りします。
このブログを読んでから長い読者の皆様なら、大ヒットしたスタジオジブリのアニメ映画「もののけ姫」及び「千と千尋の神隠し」の中に、日本神話をモチーフとした登場人物が描かれているのを既にご存知かと思います。詳しくは過去記事「千と千尋の二人姫」をご覧になっていただきたいのですが、その登場人物(あるいは神)が、今年調査に向かった高知県の足摺岬と何やら関係あるだろうという話になります。
■「千と千尋の神隠し」と「もののけ姫」
前回の記事「足摺岬と奪われた女王 」では最後に次の様なカットを掲載しました。

リンは元からそこ(油屋)に居たお風呂屋の女中、また、千尋は新入りの女中見習いというポジションで、まだ仕事に慣れていない千尋のことをリンは厳しくも優しく見守るという設定になっています。
さて、これまでの分析から、この二人は各々次の日本神話上の登場人物をモチーフにしていることが分かっています。
千尋 : タクハタチヂヒメ
リン : アメノウズメ
ここで、やはり前回の記事に掲載したこの時代の予想系図をここに再掲します。

さて、この画像2に注目すると、少女神(皇后)の系譜は
9代:タクハタチヂヒメ
10代:アメノウズメ
11代:コノハナサクヤヒメ
と推移しますが、ここに記載されているコノハナサクヤヒメをモデルにしたのが「もののけ姫」の主人公「サン」であり、実はこの作品の冒頭に登場する「カヤ」のモデルが「千尋」と同じタクハタチヂヒメであることを、皆さん覚えておられるでしょうか?

「もののけ姫」の中では、黒曜石の短剣を象徴に王権が「カヤ」から「サン」へと移譲されるのですが、実はこの解釈だと画像2の系図で第10代の王権継承権を受けるはずのアメノウズメが一つ飛ばされることになります。
実はここに、アメノウズメの夫で後に猿田彦の蔑称を付されたホノアカリが正史から皇統の正式な後継者を抹消された痕跡が見えるのです。ただし、それならば「千と千尋」の中でどうしてわざわざ「リン」と「千尋」、すなわち「アメノウズメ」と「タクハタチヂヒメ」が親しい関係として描かれているのか疑問が湧いてくるのです。
■油屋は龍宮城なのか?
画像2で第12代王権継承権を有したと見られるミカシキヤヒメですが、これはアメノウズメと同様に正史から消された側の王朝だとすれば、同時期を扱ったジブリ作品に登場しないのも頷けるのですが、次に疑問なのが、コノハナサクヤヒメに続く皇統の系譜です。
系図では、豊玉姫(とよたまひめ)、玉依姫(たまよりひめ)と2人の少女神(皇后)がコノハナサクヤヒメに続くのですが、ミカシキヤヒメが正史から排除されてしまった後、王権継承の順をどのようにナンバリングしたらよいのか、もうここで分からなくなってしまうのです。
神武天皇の皇后となるタタラヒメとイスズヒメについては、「千と千尋」の中で「湯婆婆」と「銭婆」の双子の姉妹として描かれているのは確認していますが、それを繋ぐ豊玉姫と玉依姫についての言及がないのはいったいどうしたことなのでしょうか?
ここで、「リン」と「千尋」が住み込みで働かされていた「油屋」が何かの象徴ではないかと考えてみます。

以前、油屋は三重県伊勢市内に実在した同名の女郎茶屋がモデルではないかとしましたが、アニメに描かれた「お城」のように立派な構えと、庭に植えられた「木」、そしてお風呂屋ということで「水」に縁がある存在、そこで思い出されるのが
龍宮城
なのです。
その龍宮城、日本書紀には次の様に記述されています。
その宮は立派な垣が備わって、高殿が光り輝いていた。
講談社学術文庫 日本書紀(上) 現代語訳 宇治谷孟監修
門の前に一つの井戸があり、井戸の上に一本の神聖な桂
の木があり、枝葉が繁茂していた。彦火火出見尊は、そ
の木の下をよろよろ歩きさまよった。
彦火火出見はその井戸の前で豊玉姫と出会うのですが、垣と高殿、木に井戸(水)などという記述は、むしろ画像4を描く上での想像上の情景と瓜二つと言えないでしょうか?
油屋のモデルが神話の中の龍宮城だとするならば、そこに囲われていた「千尋」と「リン」はいったい何を意味しているのか?神話に於いては、豊玉姫と玉依姫は共に龍宮城出身の姫神とされています。
そこで私はこう考えます
豊玉姫はタクハタチヂヒメの別称
玉依姫はアメノウズメの別称
であると(代の順で)。
即ち、既に王権継承を経験したことのある二人の少女神(皇后)が、再び王権の継承者として男性王を迎え入れることになったのでないか、ということなのです。
2代前の少女神ならば、再婚時点ではもうお婆ちゃんではないかと思われるかもしれませんが、当時の婚姻は10代半ば前後で行われていたと考えられ、2代くらい後ならばまだ30代であり、再婚する年齢としては特に問題がなかったはずなのです。
しかし、ここで二人に豊玉姫、玉依姫と別の名が与えられたのは、その行為が何かやましいからであり、元の名では正史に残せなかったのではないでしょうか?
少女神仮説においては、王権の継承権は女性側にあり、現実的な解釈としては、王権を手中にしたかった彦火火出見(ホオデミ)(註1)は、先々代の皇后(タクハタチヂヒメ)及びホノアカリの皇后であるアメノウズメを略奪し、ホノアカリに対抗する王朝を強引に立ち上げたのではないかと推測されるのです。
註1:彦火火出見には三嶋神、賀茂建角身命(かものたけつぬみ)、そして八咫烏(ヤタガラス)の別名が付されていることも既に説明済みです。
正史においては、日本の初代天皇は神武天皇であり、神武天皇以前の王は神話の神とされてしまってますが、実はそのような史実の改変を行った一番の理由とは、ホノアカリ正統王朝を史実から抹消するだけではなく、女系王権の系統がこのように混乱してしまったので、新たに王権の系譜を作り直す必要に迫られたからではないかと考えられるのです。
そうなると、現在ある天皇家は古代の略奪者の血統なのか?と疑う向きも出て来るかもしれませんが、ここで注意しなければならないのは、日本における王権の継承者はあくまでも女系家系であり、実は現代においても、その血統がどこかで脈々と続いているのではないかとも考えられるのです。
足摺岬では龍宮城の神々と同時に、正史から消されてしまった王、ホノアカリ(蔑称猿田彦)の名前の痕跡が見られますが、これは、少女神の獲得競争、すなわち王権を巡る当時の激しい争いを表しているのかもしれません。
姫神の願い継がれる日本(ひのもと)は ただ弥栄ぞここに有らなむ
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