消えた火明の考察

前回の記事「八咫烏の兄弟」では、記紀や先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)の記述から、八咫烏(やたがらす)とも称される上代天皇彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)には、伝承によって出生順や兄弟の人数(2~4人)、名前の表記に揺らぎがみられるもの、概ね次の3兄弟が居たらしいことが読み取れました。

 ・火闌降命(ほのすそりのみこと)
 ・彦火火出見尊
 ・火明命(ほのあかりのみこと)

そして、この3兄弟誕生の説話の続きには、日本神話でも有名な「海彦・山彦」の物語が続くのです。

ここで、海彦が火闌降命、山彦が彦火火出見尊に該当するのですが、ここでは山彦が龍宮城へ向かった経緯から豊玉姫との出会い、兄弟同士の抗争へと比較的長い記述が続くにも拘わらず、何故か3兄弟の1人、火明命はこの話の中には全く登場しないのです。

 火明命はどこに消えてしまったのか?

その点を問題定義した上で、火明命とはかつてこのブログで指摘した、猿田彦(さるたひこ)あるいは味耜高彦根(あぢすきたかひこね)と呼ばれる人物と同一人物であるという結論を思い出しました。

それでは、彦火火出見と共に出生した火明命とは猿田彦であったのか、同時に、どうして海彦・山彦神話から名前が消されてしまったのか、その点について考察してみたいと思います。

■古代2王朝時代

秀真伝(ほつまつたえ)には、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)を王とする王朝と、火明命を王とする王朝の2つの王朝が併存していたとの記述が残されています。

そして、本ブログの結論として、その火明が猿田彦あるいは味耜高彦根、あるいは天稚彦(あめわかひこ)の別名であると導いています。この導入については過去の記事を参考にしてください。

ここで改めて、秀真伝から彦火火出見の前後の代の系図を抜き出してみましょう。

画像1:彦火火出見と2王朝時代の関係(秀真伝)
「代」は神武天皇以前の古代皇統(アマカミ)の王統を表す

この時代は、本来は少女神解釈による女系継承による系図に変換する必要があるのですが、ここでは、秀真伝の記述のままとします。純粋な血統ではなく、王の世代順を表していると見てください。

注目すべきは火明命と饒速日命との関係で、秀真伝では饒速日命は養子として火明命王の跡継ぎに迎えられたことになっていますが、誰の子であるかは不明です。

王の継承者となるべき人物ですから、それなりの血筋は保証されていると考えると、図中に赤い点線で示したように、瓊瓊杵尊の子である可能性が高いでしょう。

実はこれまでにも、このブログでは饒速日命が瓊瓊杵尊とその母である栲幡千千姫命(たくはたちぢひめ)の間に生まれた子ではないかと予想しています。そうなると母子婚の子のように見えますが、女系継承が一般的なこの時代ですから、瓊瓊杵尊が必ずしも栲幡千千姫命の血の繋がった息子であったとは言えないでしょう。

ただし、前王の王妃を孕ませてしまったことから、その高貴な血筋の子である饒速日命は、当時もう一つ存在していた火明命の王朝に養子に出されてしまったことは十分に考えられるのです。

饒速日を瓊瓊杵尊の子と考えると、ここでも記紀の記述で言う所の3王子、あるいは3兄弟の存在と辻褄が合ってきます。

その対応関係は、おそらく

 ・火闌降命   → アメノカミ
 ・彦火火出見尊 → ホオデミ
 ・火明命    → ニギハヤヒ

となりますが、闌降命がアメノカミのことを表すかどうかは、正直なところはっきりとしません。しかし、火明命がニギハヤヒを指すのはほぼ間違いないでしょう。なぜなら、ここでいう火明とは

 王朝名、あるいは世襲名を表している

と考えられるからです。

そうなると、火明王朝に養子に出された饒速日命(2代目火明命)が、海彦・山彦という2人の兄弟の争いに加わらなかった理由も何となく見えてきます。

すると、ここで問題になってくるのは、

 ・火明王朝(饒速日王朝)はどこに消えてしまったのか?
 ・そもそもどうして2王朝時代は始まったのか?
 ・火闌降命は兄弟抗争に敗れた後どうなってしまったのか?

の3点なのですが、ここに初代神武天皇が誕生するに至った、隠された古代史があるのではないかと私は考えるのです。つまり、現天皇家がどのように誕生したのか、その経緯を表していると言ってよいでしょう。

特に秀真伝で言うアメノカミ(火闌降命?)が彦火火出見直系の子ウガヤフキアワセズの母であり同時にその王妃でもある玉依姫と婚姻関係を結んでいたとする記述が非常に気にかかるのです。

これはいったいどういうことなのでしょうか?

画像2:千と千尋の神隠しから千尋とハク
アニメ評論界隈では兄妹説が一般的だが、古代史解釈的には千尋のモデルが栲幡千千姫命、ハクのモデルが饒速日命なのは明らかなので、古代王朝における母子関係を表していると考えられる。


三重津浜雲追い追いて訪ぬれば、あれ出でませし白き龍神
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