ムカツ姫とヒルコ姫

話が大分複雑になってきたので、これまで数回のシリーズで登場した人物をここで再確認してみます。くどくなって申し訳ありませんが、本ブログでは

 日本神話は史実を婉曲化したもの

という認識で分析していますので、今後は全て「登場人物」という表現で統一したいと思います。

これまでの関連記事の流れは、前年末のまとめ記事「書き換えられた皇統史 – 令和七年のまとめ」に掲載順に列記していますので、よろしかったらそちらも確認頂きたくお願いします。

前回の「少彦名と淡島」でも述べたように、伊弉諾(いざなぎ)と伊弉冉(いざなみ)、そして少彦名(すくなひこな)は同時代人であることが窺えるので、この時代を記号的に「F」(FloodのF)で表し、数学の集合記号∈(属する) を用いれば次の様に表現できるかと思います。

  (伊弉諾,伊弉冉,少彦名) ∈ F

少彦名は大国主の協力者ということですから

  (伊弉諾,伊弉冉,少彦名,大国主) ∈ F

となります。大国主の后(きさき)は隠津島姫(おきつしまひめ)、またの名が豊玉姫(とよたまひめ)、あるいは宗像三女神の一人湍津姫(たぎつひめ)であることも分かっていますから、この女神に加え田心姫(たごりひめ)と市杵島姫命(いちきしまひめ姫も同時代人ということになります。

また、この三女神は豊玉姫・玉依姫(たまよりひめ)・木花開耶姫(このはなさくやひめ)の別名でもありますから、同時代の登場人物は次のようになるでしょう。

  (伊弉諾,伊弉冉,少彦名,大国主,豊玉姫,
  玉依姫,木花開耶姫) ∈ F

さて、伊弉諾・伊弉冉と言えば、記紀神話では次の子を産んだとされています。

  天照大神,月読,素戔嗚

いわゆる三貴子なのですが、二人の子ということならば当然ながら同時代を生きた人物だと考えられます。よって集合記号は次のように表現できます。

  (伊弉諾,伊弉冉,少彦名,大国主,豊玉姫,玉依姫,木花開耶姫,
  天照大神,月読,素戔嗚) ∈ F

玉依姫は天鈿女(あめのうずめ)の別名で、天鈿女は猿田彦(さるたひこ)と呼ばれる火明(ほのあかり)の后であるだけでなく、後に鵜葺草葺不合(うがやふきあわせず)の后にもされています。同じように、豊玉姫も彦火火出見の后ともされています。これを同時代集合に加えると、次のようになります。

 (伊弉諾,伊弉冉,少彦名,大国主,豊玉姫,玉依姫,木花開耶姫,
 天照大神,月読,素戔嗚,火明,彦火火出見,鵜葺草葺不合) ∈ F

とりあえず、これまで扱ってきた人名は以上のようになります。以上の人物はそれぞれ年齢差はあるにせよ、どうやら全てこの困難な時代(おそらく大洪水)を経験した人々と認識してよいでしょう。

■世代間隔の再考

記紀だけでなく、秀真伝においてもこれらの人物は親子関係で結ばれているとされるので、それに従うと伊弉諾・伊弉冉から一番離れた鵜葺草葺不合と玉依姫のペアまでは、なんと六世代も隔絶していることになります。

当時が若年期における婚姻・出産が普通、なおかつ長寿であったとしても、さすがに六世代も隔世していれば、本当に同時代人だったのかは極めて怪しくなります。

画像1:記紀神話に語られる歴代王権の推移
これは本当なのか?

ならば、前段における同時代人の仮説自体が間違っているとも考えられますが、私はそうは思いません。むしろ

  史書の系図が捏造されている

のだろうと見ています。

この考えを具体化させる回答こそが、以前からお伝えしている「女系による王権継承」であり、誰(男性)であろうと、王位継承権を所持している女王を娶らない限り、例え王の実子であろうと次の王座に付けないというものです。つまり、必ずしも王の子が次の王に成り得ず、時には次代の王が先代より年齢がかなり上だということもあり得たはずなのです。

そして、この制度を可能にしていたのが、複数の王権継承女系家族の存在で、そこに在籍する何人もの女王候補の中から適任者が選ばれたのだと考えられます。複数存在するのは万が一女の子が生まれない家が出ても、王権が確実に継承されるようそのバックアップとなる仕組みが当然作られていたと考えられるからです。

そしてその女王選考方法とは、当時の価値観を鑑みるにほぼ間違いなく

  御神託

であったと考えられるのです。

「御神託で女王と王が決まるのか?」と歴史学者だけでなく多くの人が疑問に思うかもしれませんが、それは極めて現代的な思考であり、当時においては神事的手段こそが、王権を支える絶対的な判断基準であったと考えられるのです。特にこの日本(にほん)においてはです。

現在では天皇家であれ一般家庭であれ、親子による血の継承、特に男系長子で一家が繋がっていると考えるのが一般的ですし、それについては古代史を研究する学者でさえ露ほども疑いを持ちません。

どうしてそれが一般常識になってしまったのか?実はこの状況を生み出すことこそが史書における「系図捏造の大きな理由」であり、現代日本人(にほんじん)は千年以上かけてその改変された常識にどっぷりと染まってしまったことになります。

別の言い方をすれば、

  女系による日本国王権継承の事実を完全隠蔽

するのが狙いだったと考えられるのです。

■ムカツ姫とヒルコ姫

さて、先に挙げた集合図なのですが、実はまだ何人か重要人物が抜けています。その中の重要人物こそが、

  ムカツ姫

なのです。また、前回紹介したヒルコ姫もこれに加えなければなりません。

この二人の姫のことは記紀には書かれていないようですが、秀真伝ではしっかりとムカツ姫の地位が次のように記載されているのです。

  男性王天照(あまてらす)の后

であると。

私たちは日本神話の中で、日本の最高神は女神の天照大神だと教わっていますが、秀真伝では天照は男性であると明示されており、日本神道の重要な位置をなす神、そのモデルとなったであろう天照なる人物の性別が逆転されているのです。

ムカツ姫はまたの名を瀬織津姫(せおりつひめ)と呼び、この姫神は記紀には登場しないものの、祓祝詞にだけ名前が記されている神として知られています。

そしてヒルコ姫とは、前回お伝えした通り、記紀神話で葦船に乗せて流されてしまった蛭子(ひるこ)を指すと考えられます。別名は下照姫(したてるひめ)。

当然この二人もF時代の同時代人と考えられ、よって前述の集合表現は

  (伊弉諾,伊弉冉,少彦名,大国主,豊玉姫,玉依姫,木花開耶姫,
  天照大神,月読,素戔嗚,火明,彦火火出見,鵜葺草葺不合,
  瀬織津姫、下照姫) ∈ F

と書き加えられるのです。

おそらく史書改竄により系図が引き延ばされ、互いに離れた代の人物にされてしまったこれら同世代人たちが、いったいこの時代で何を見、どう生きてきたのか、記紀の暗号解読を進めることで、いよいよその事情が見えてくるかもしれません。


管理人 日月土


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