今回も、日本神話の誓約について考察します。素戔嗚(すさのお)が噛み砕いて吐き出した御統(みすまる)の玉が、5柱の男神となったという記述についてですが、御統が王統を象徴する用語であること、また、神話とは史実の婉曲であると考えられることから、ここで言う5柱の神とは、実際は古代期における正統な5人の男性王と解釈できるとしました。
秀真伝(ほつまつたえ)では、記紀には記述のない「オオモノヌシ皇統」が記述されていることから、この5人の王とは初代から第四代までの歴代オオモノヌシ、それにニギハヤヒを加えたものというのが、前回記事の結論だったのです。
御統の5人の王
(1) オシホミミ = オオクニヌシ(初代オオモノヌシ)
(2) アメノホヒ = ホノアカリ (二代目オオモノヌシ相当)
(3) アマツヒコネ = ニギハヤヒ (養子)
(4) イクツヒコネ = ミホヒコ (三代目オオモノヌシ)
(5) クマノノクスビ = カンクチ (四代目オオモノヌシ)
ニギハヤヒは別として、どうやら誓約によって決められた古代日本の正統王とは、いわゆる素戔嗚に始まる出雲族の男性たちだったと読めるのです。
そして、神話をこのように解釈した時に初めて、ただの寓話のようにしか聞こえない「出雲の国譲り」・「ニギハヤヒの国譲り」の本来の意図が
男性王を素戔嗚の血族から輩出するのが国譲りの条件
という、具体的な約定を表していると解釈できるのです。
この場合考えられる当時の社会的背景とは、おそらく高天原国と出雲国による統一王国の誕生だったのではないかと私は予想したのです。
しかし問題なのは、どうして正統王であったはずのオオクニヌシやニギハヤヒの名が、記紀の中では王と記されず、このような神話と言う婉曲的表現でのみその名が残されたか、まさにその点なのです。
■剣から生まれた三柱の女神
さて、誓約五男神の考察が済んだところで、次に女神天照大神が素戔嗚の剣を噛み砕いた時に生まれたとされる三柱の女神について見ていきましょう。
Wikipediaに掲載された誓約の関係図は古事記をベースにしており、宗像3女神(むなかたさんじょしん)とも呼ばれるこの三柱の神は、古事記では次の様に書かれています。
古事記に書かれた3女神 (*数字は記述された順)
1. 多紀理毘売(たぎりびめ) *別名:奥津島比売(おきつしまひめ)
2.市寸島比売(いちきしまひめ) *別名:狭依毘売(さよりびめ)
3.多岐都比売(たきつひめ)
日本書紀の場合は微妙に神名の表記が異なりますが、これを書き出すと次の様になります。
日本書紀(本文)に書かれた3女神 (*数字は記述された順)
1.田心姫(たこりひめ)
2.湍津姫(たぎつひめ)
3.市杵嶋姫(いつきしまひめ)
ここでちょっとだけ疑問が生まれます。古事記と日本書紀の間で2.と3.の記述順が異なっているのも少し気にはなるのですが、何よりも、誓約で生まれた五柱の男神が、実在したであろう5人の王を指しているとするなら、どうして女王は三人しか記述がないのでしょうか?
その他、日本書紀にはこの誓約神話には3つの一書(あるふみ)が併記されており、そこには次の様に書かれているのです。
一書1
1.オキツシマヒメ
2.タギツヒメ
3.タコリヒメ
一書2
1.イチキシマヒメ
2.タコリヒメ
3.タギツヒメ
一書3
1.オキツシマヒメ *別名:イチキシマヒメ
2.タギツヒメ
3.タギリヒメ
どうやら、どの史書も三柱の神名はほぼ共通なのですが、その記述順に一貫性はないようです。
そして、これらを眺めて気になるのが「オキツシマヒメ」という姫神の別名で、3編の一書を見比べる限り、「イチキシマヒメ = オキツシマヒメ」という等式が成立ちそうなのですが、古事記の記述では「タギリヒメ = オキツシマヒメ」とあり、既にここで矛盾が生じてしまうのです。
ちなみに、秀真伝では大国主の王妃は「オキツシマヒメ」とされており、冒頭で述べた様に大国主とは誓約に記述された男性王「オシホミミ」と同一人物であると考えられることから、ここに
オシホミミ(男王) === オキツシマヒメ(女王)
となり、少なくとも誓約に書かれた男女1組の国王のペアがここに完成することになるのです。
また、これまでの過去記事で考察してきた以下の結果を適応すると
オシホミミの王妃 = タクハタチヂヒメ
タクハタチヂヒメ = 豊玉姫
↓
オキツシマヒメ = タクハタチヂヒメ = 豊玉姫
となり、少なくとも大国主の王妃が誓約に記述された宗像3女神(タコリヒメ、タギツヒメ、イチキシマヒメ)の中の誰かだということが予想されるのです。
■木幡山穏津島神社
この3女神の素性を調べるべく、今年の6月に福島県二本松市にある木幡山隠津島神社へ出かけて来ました。

この神社の御祭神は今回取り上げた宗像3女神なのですが、案内版によると神社の社名ともなった穏津島姫(おきつしまひめ)とは、日本書紀の一書群に見られるような「オキツシマヒメ=イチキシマヒメ」と言う説を採用しているようなのです。
しかし、オキツシマヒメが本当にイチキシマヒメのことを指すのかはまだ確定しておらず、これについてはもう少し考察を続ける必要がありそうです。
管理人 日月土
“誓約(うけい)の暗号 – 隠津島姫と3女神” への1件のフィードバック