推しの子に見る月読尊と伊予

最近のアニメ作品に、様々な日本神話の事象がモチーフとして取り入れられている点については、これまで何度もお伝えしその事例を紹介しています。

今回もその分析手法の中で、最近注目されているアニメ「推しの子」から、少し気になる歴史テーマを取り上げたいと思います。

画像1:アニメ「推しの子」
©赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会

実は、このタイトル画像にそのサインがしっかり現れているのにお気付きになったでしょうか?

画像2:「の」の字に三日月の
デザイン

この作品、「推し」が「星(ほし)」と語調を重ねていたり、主人公の名字が「星野」であること、また、瞳に描かれた六芒星が特徴的であったりと、とにかく普通に視聴すれば「星」が殊更強調されているように見えます。

しかし、画像2のタイトル文字デザインのように、こっそりと「月」のサインが盛り込まれているのに気付くのです。それは何もタイトル文字だけでなく、次のシーンでも現れているのです。

画像3:主人公に兎(うさぎ)の髪飾り
画像4:YOASOBI「アイドル」公式動画より 
兎のデザインに兎の被り物
https://www.youtube.com/watch?v=ZRtdQ81jPUQ
画像5:満月を模したと思われる
キャラ「ぴえヨン」

日本人であるならば、兎(うさぎ)と聞けば普通に月を連想するでしょう。それが無理なこじつけでないことは、タイトル文字および脇役「ぴえヨン」が象徴するイメージを考慮すれば明らかです。

つまり、ここに登場する少女の主人公は、何か「月」に象徴される歴史上の人物と関連付けされている可能性が極めて高いと考えられるのです。

追記

この記事を投稿した6月15日の晩に放送された第9話でも、やっぱりやってくれました。本当に期待を裏切らないアニメですね。


「有」 → 「十」+「月」→ 十(分)な月 → Full Moon(満月) → ぴえヨン

■かぐや姫と月読尊

一般的に、月と関連付けられている歴史上、あるいは神話・寓話上の女性と問われれば、

 かぐや姫

が最初にあげられるのではないかと思います。

かぐや姫は平安時代の前期に書かれたと言われる「竹取物語」に登場する女性で、竹から生まれ、養父母に育てられ美しく育ち、多くの貴人から求婚されるも、最後には使者の迎えに従い月に帰ると言う、おそらく誰もが耳にしたことのある物語の主人公です。

この「かぐや姫」の物語の成立過程を考察すると、私が調査中の少女神との関係性が見えてくるのですが、ここでは、もう一人の月に関連する(おそらく)女性について取り上げます。

それは、昨年の記事「月読尊 - 隠された少女神」でも触れた月読尊(つくよみのみこと)のことです。

記紀では性別不詳、秀真伝では男性として記述されている月読尊ですが、これはおそらく改竄された記述で、実際は女性であったのではないかとの考察を同記事では述べています。

とにかく、月読尊はその事跡に関する記述が極めて少ないだけでなく、祭神として祀っている神社もあまりなく、いったい生前何をされた人物なのか調べる手掛かりがまるで分からないのです。しかし、その名が記紀にしっかり残されていること、また、天照(あまてらす)素戔嗚(すさのお)と、ナギ・ナミから生まれた3貴子の一人と数えられていることから、その歴史的な存在意義は極めて高かったのではないかと想像されるのです。

■イヨツヒメの示すもの

同上の過去記事では次の様な、秀真伝から引用した系図を掲載しました。

画像5:秀真伝に記されたツキヨミ-イフキヌシの系図

系図の改竄手法の一つに、男女夫婦の出身家を交換するやり方が考えられると「三嶋神と少女神のまとめ」で触れていますが、そうすると、この系図に記述されている男性ツキヨミとは「イヨツヒメ」と同一人物ではなかったのか、つまり、女性ツキヨミとは別名イヨツヒメと呼ばれる姫であったとも考えられるのです。

秀真伝式に「イヨツ」と音だけの表記ではよく分からないのですが、これを漢字で書き直してみると、その意味が見えてきます。もちろん、漢字を当てるパターンは幾つも存在するのですが、その中で私にとって一番しっくりくるのが実は

 伊予津

すなわち、伊予の湊(みなと)という土地を現した名前なのです。

私がこの当て字を強く「推す」のには理由があり、伊予の国と言えば当然ながら現在の四国瀬戸内にある

 愛媛県

を指す旧国名であり、何と言っても県名に「媛を愛する」と姫に関する文字が組み込まれているからなのです。ここに、愛媛県という地名としてはちょっと謎な名称が選ばれた本当の理由があるのかもしれません。

そう言えば、昨年公開された歴史(と呪術の)てんこ盛り映画「すずめの戸締まり」でも、愛媛県の港の地が主人公の来訪地としてしっかり描かれていましたよね。

画像6:映画「すずめの戸締まり」に登場した八幡浜港(愛媛県)
©2022「すずめの戸締まり」製作委員会

どうやら、手掛かりの少ない月読尊について何か情報を得るのに、とにかく愛媛まで出向く必要がありそうです。

■伊予の国で見つけた物

そういう訳で、つい先日、私は愛媛県の松山に向かい、三嶋神と縁の深い大三島と対岸の今治、また、宇和海(うわかい)と呼ばれる豊後水道に面したリアス式の海岸線が続く地域の中から、その中央部に位置する宇和島へと調査に向かったのです。

同地についてはまだまだ不案内で、はっきりとこれという成果は報告できないのですが、ここではその中で一番気になった場所の写真を掲載したいと思います。

画像7:宇和島市内で撮影

これが何を意味をするのか、このブログの過去記事をお読みになった方ならある程度察しが付くかもしれません。今回のテーマが「月読尊」に関するものであることを考え合わせれば、おそらくそうであろうと私は考えているのです。

果たして「推しの子」の隠された主人公アイとは「愛媛」の「愛」のことで、もしかしたら伊予の姫君を指しているのではないのか?伊弉冉(いざなみ)の血を受け継ぐ少女神との関係性がまたしても気になってしまうのです。

 関連記事:
  ・「推しの子」推しの話 
  ・「有馬かな」が語るもの 


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