もののけ姫と獣神たち

前回の記事「愛鷹山とアシタカ」で、スタジオジブリの大ヒットアニメ映画「もののけ姫」に登場する各主人公が、神武天皇以前の日本神話をモデルにキャラクター設定されているのではないかという話題を扱いました。

それをざっとおさらいすると

 アシタカ :ニニキネ
 カヤ   :チチヒメ
 サン   :コノハナサクヤヒメ
 エボシ御前:ヒメタタライスズヒメ

となり、そしてこの設定は、やはりジブリの大ヒット映画「千と千尋の神隠し」の主要キャラクターである、「ニギハヤヒ」及び「湯婆婆」に引き継がれているであろうとの結論に至っています。

 参考:上代皇統とジブリ映画 

秀真伝(ホツマツタエ)によると、ニニキネの母であるチチヒメは、別名「アシツヒメ」であり、また、第7代タカギムスビの娘であることは既にお伝えした通りです。つまり、チチヒメは史実的には

 「アシ」と「タカ」

から始まる呼び名を持つ女性であり、その象徴であるカヤは、映画では物語の初めにしか登場しない地味な存在ではありますが、実は主人公のアシタカと切っても切れない関係であることを表しています。

これを単なる母子関係と捉えるのは簡単なのですが、カヤのことは、映画の設定ではアシタカの許嫁となっており、母子とは表現していません。この史書と物語設定の間に見られるギャップこそが、第10代アマカミ・ホノアカリの世継ぎとして養子に迎えられたニギハヤヒを、実は母チチヒメと子ニニキネ(映画ではカヤとアシタカ)の間に生まれた「不義の子」とみなした根拠の一つなのです。

天照大神の子、正哉吾勝勝速日天忍穗耳尊(まさかあかつかちはやひあまのほしほみみのみこと)、高皇産霊尊(たかみむすびのみこと)の女(むすめ)𣑥幡千千姬(たくはたちぢひめ)を娶(ま)きたまひて、天津彥彥火瓊瓊杵尊(あまつひこひこほのににぎのみこと)を生(あ)れます。


簡訳:天照大神の子である忍穗耳尊は、高皇産霊尊の娘、𣑥幡千千姬を娶り、その間に瓊瓊杵尊が生まれる。

日本書紀 神代二

上述のように、日本書紀ではチチヒメのことを「千千姫」と表記しており、字を見ればお分かりの様に、「千」の字を二つ重ねていることが分かります。また、ニギハヤヒは不義の子であることから、その出自を隠されなければならない王位継承者(アマカミ)であったと考えられます。つまり、”チチヒメの産んだ世間から隠されるべきアマカミ”、すなわち

 千と千尋の神隠し

なるタイトルが生まれる理由となり得るのです。

■獣の形をした神々

さて、もののけ姫では獣の形をした神々が登場します。その中で、主人公に近い存在を二柱を取り上げます。

画像1:(左)モロと(右)乙事主(おっことぬし)
(© 1997 Studio Ghibli・ND)

モロは300歳、乙事主は500歳という設定だそうですが、物語的には豊かな自然を守ってきた、獣の形をした古い神々ということになっているようです。

これまで見てきたように、もののけ姫に登場するキャラクターの名前には何かしらの歴史的意味付けがなされているようなので、こちらについても、日本神話に基づきそのモデルを探って行きたいと思います。

さて、まずは犬神という設定のモロなのですが、「モロ」なる響きは個人的にあまり馴染みがなく、どこから調べたらよいか迷いましたが、こういう時はまず地名や神社名から調べるのが鉄則なので、早速、自前の住居表示データベースを調べたところ

 岩手県奥州市前沢区両手沢   マエサワクモロテザワ
 宮城県栗原市高清水茂路具多  タカシミズモログタ
 秋田県秋田市河辺諸井     カワベモロイ
 福島県二本松市諸越谷     モロコシガイ
 茨城県稲敷郡美浦村茂呂    モロ
 栃木県佐野市北茂呂町     キタモロチョウ
   ‥‥‥‥‥

等々、全国に100か所近くあり、特に大きな偏りも見られないのでちょっとお手上げ状態です。但し、市町村郡名、特に宮崎県の複数ある諸県(モロカタ)郡については気になるものがあります。

 埼玉県入間郡毛呂山町    イルマグンモロヤママチ
 長野県小諸市        コモロシ
 宮崎県北諸県郡三股町    キタモロカタグンミマタチョウ
 宮崎県西諸県郡高原町    ニシモロカタグンタカハルチョウ
 宮崎県東諸県郡国富町    ヒガシモロカタグンクニトミチョウ
 宮崎県東諸県郡綾町     ヒガシモロカタグンアヤチョウ
 宮崎県東臼杵郡諸塚村    ヒガシウスキグンモロツカソン

次にGoogle Map でモロと呼ぶ神社がないかを調べたところ、なんと、そのままズバリの神社が関東、それも千葉県内に存在することが分かりました。

画像2:千葉県に3社存在する茂呂(侶)神社

 (1)茂侶神社  千葉県船橋市東船橋
 (2)高木村社 茂呂神社 千葉県松戸市小金原
 (3)三輪茂侶神社 千葉県流山市三輪野山

そして、ネットで各神社の情報を収集したところ、それぞれの主祭神は

 (1)木花之開耶姫命 (コノハナサクヤヒメ)
 (2)大物主命 (オオモノヌシ)
 (3)大物主命 (オオモノヌシ)

であることも判明しました。ここでちょっと驚くのは、(1)の船橋の茂侶神社の場合、まさに次の画像3とピッタリの組み合わせであることです。

画像3:モロとサン(モロとコノハナサクヤヒメ)
(© 1997 Studio Ghibli・ND)

そして、(2)(3)の祭神が、カヤ・アシタカ・サンのモデル解説では登場しなかった、オオモノヌシ系の神社、いわゆる出雲系の神社であることもまた驚きの一つでした。

Wikiの「茂侶神社」の説明には「モロ」の由来について次のように書かれています。

社名の「茂呂」は、大和国三輪山の旧名「御諸山(みもろやま)」の「モロ」のことであるとされている。三輪山の麓には、三輪山を神体山とする大神神社があり、大物主命を祀っている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8C%82%E4%BE%B6%E7%A5%9E%E7%A4%BE

(3)の社名にも「三輪」が入っていて確かに分かりやすいのですが、もっと仰天するのはモロ役の声優がなんと歌手の美輪明宏氏、「ミワ」さんなのです。ここまで一致するともはや偶然の一致とは言えません。明らかに制作側には「三輪(みわ)」と「モロ」の関係性、コノハナサクヤヒメと「モロ」の関係性を示そうとする意図があると分かるのです。

画像4:美輪明宏氏

■乙事主は事代主か?

ここで、秀真伝に詳しくない方に向けて、秀真伝が記す上代皇統の簡略化した系図を以下に示します。

画像5:上代3皇統図

日本の古代史と言えば、超自然的神の系統であると言われる現天皇家の家系ばかり強調されますが、秀真伝によると、実際には神武天皇以前にアマカミ・タカミムスビ・オオモノヌシの3つの皇統が存在し、それぞれが当時の日本の統治に関わっていたようなのです。

そこから推測すると、2つの茂呂神社の主祭神である大物主命とは、誰か個人のことではなく、3つの皇統の一つである歴代オオモノヌシ、一般には出雲系血族の族長世襲名であると考えられます。

モロと同じく獣に描かれた乙事主は500歳、すなわちモロよりも年長であることから、まずは、歴代オオモノヌシの始祖、初代オオモノヌシのオホナムチを象徴しているのではないかと考えました。

しかし「乙事主」の当て字をもう少し考察すると、甲乙丙の乙は2番目と言う意味で、2代目オオモノヌシのクシヒコ、もしくは別名のコトシロヌシを指しているとも考えられます。何より「(乙)事主」がコトヌシですから、どうやらこちらの方が、乙事主のモデルに相応しいのではないかと思われるのです。

乙事主をコトシロヌシと仮定すると、500歳に対して300歳のモロはコトシロヌシの弟、系図では、タケミナカタ、アチスキタカヒコネ、シマツウシの誰かということになります。これは、二匹の子の山犬をその兄弟と見なした場合の考え方です。しかし、物語でモロは雌という設定なので、あっさりと妹のタカテルヒメと比定する方が順当なのですが、そうなると二匹の子の山犬をどう見るのかという問題が生じます。

困ったことに、オオヤマスミの娘であるコノハナサクヤヒメには、系図上、オオモノヌシ系と繋がるこれといった手がかりがありません。

しかし、もののけ姫の中でモロとサンが一緒に活動しているという描写の中には何か二つの家系を紐付ける理由があるはずです。そしてそれはまた、オオモノヌシ系を人ではなく、山の獣として描く、一種の侮辱的表現の中にも埋め込まれているはずです。

以上は単なるアニメ映画の解説のようですが、実は日本の皇統とその始まりを理解する上で、非常に重要なメッセージを扱っているのではないかと私は感じています。特に、モロのモデルが誰であるのか、そして、なぜそこが強調されるのか、その点に注意する必要がありそうです。

この話は次回に続きます。

画像6:船橋の茂侶神社(2019年12月に撮影)
社は住宅街のある高台から東京湾側を見下ろす



良き悪しき皆祓いませ科戸の風に
管理人 日月土


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