アニメ映画「もののけ姫」の設定に、日本古代史がテーマとして組み込まれているのではないかと指摘してから1年以上が経過しました。
関連記事:愛鷹山とアシタカ
その分析の中でもやもやと引っ掛かっていたのが、カヤという少女の存在です。呪いを掛けられたアシタカは、その呪いを解く為に村を離れることになるのですが、懇意にしていた村の少女「カヤ」と決別することになります。
このカヤとアシタカのモデルとなった日本神話上の登場人物は
アシタカ: 瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)
カヤ: 栲幡千千姫(タクハタチヂヒメ)
とまでは分析できたのですが、瓊瓊杵尊が富士山の静岡県側にある愛鷹山(アシタカヤマ)からその存在が比較的簡単に特定できたのに対し、どうして栲幡千千姫のことを「カヤ」と呼ぶのかはこれまで不明のままでした。
というのも、「カヤ」という呼び名からは古代朝鮮に存在したとされる伽耶連合王国との関連性が想起されますし、画像1を見ればお分かりのように、カヤの被っている帽子の形状は、朝鮮式の笠帽子「갓(カッ)」を表現しているようにしか見えません。どうしてそのような思わせ振りな役名にしたのか、今一つその理由が釈然としなかった点が挙げられます。
神話ではなく、実在した王族達のリアルな記録として日本古代史を記述する「秀真伝(ホツマツタエ)」によると、栲幡千千姫は第7代高皇産霊(タカミムスビ)に就いた高木(タカギ)の娘で、その高木は現在の東北(宮城県多賀城市付近)に宮を構えていたとありますので、アシタカの元居た村が東国にあるという設定とは上手く符号します。
しかし、高木の娘である栲幡千千姫にどうして東北とは全く明後日の方角にある古代朝鮮王国の名が付けられたのか、どう考えてもその必然性が思い付かず謎のままだったのです。
そして、この栲幡千千姫はその名が示す通り「千と千尋の神隠し」のヒロイン「千尋」として再度モデル化されるのですが、ここからも、栲幡千千姫が日本古代史において重要な役割を担っていることが窺われるのです。つまりは、伽耶とは古代日本を語る上で無視できない重要トピックであるとも読み取れるのです。
関連記事:千と千尋の隠された神
■加耶展が絶賛開催中
そもそも、私自身が伽耶なる古代朝鮮王国連合について大した知識もなかったので、これ以上の探求はストップしていたのですが、そんな折、たいへんタイムリーな企画展示が、この10月4日から千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館で開催されるのを聞いて思わず小躍りしました。
関連サイト:国立歴史民俗博物館公式ページ
そこで、博物館へ早速出かけてきたのですが、残念ながら展示物について論評できる程の力量が私にはありませんので、ここではその時の様子を簡単にお知らせするのみに留めたいと思います。
まずは、展示を理解するために必要なバックグラウンドの知識からご案内しましょう。
以下、展示室内で撮影した写真を幾つかご紹介します(写真撮影可です)。暗い室内の撮影の為、ピンボケ写真ばかりとなってしまいましたがご容赦ください。
他にも展示品はありますが、そちらについてはぜひ博物館に足を運び、実際にご覧になって頂ければと思います。
展示自体は比較的小規模で、説明文の全てに目を通しても1時間少々で見て回れるでしょう。しかしながら、日本国内ではなかなかお目にかかれない貴重な展示ばかリで、たいへん見応えがあると言えます。
日本古代史において何かと登場する伽耶ですが、文献や写真だけでは当時の様子をイメージするのは極めて困難です。しかし、このように実物を見ながらだと頭に入って来る印象や情報量が全く異なってきます。
古代日本の成立史を考察する上で朝鮮半島史は欠かせないものであり、それ抜きでいくら「神国日本!」などと叫んだところで虚しいだけです。もしかしたら「もののけ姫」はその点についても示唆しているのかもしれません。
反日だの嫌韓だのと狭い了見でいがみ合っていては、私たち日本人だけでなくお隣韓国の人々にとっても正しく民族のルーツを知るという貴重な機会を失うだけです。近現代の偏狭な歴史観に囚われた現在の日韓関係を払拭する上でも、日本と韓国の博物館が協力して実現させた今回の展示はたいへん有意義なものであると評価できます。
以上、読者の皆様には同展示の見学を強くお勧めします。
(北畠親房 「神皇正統記」より)
管理人 日月土