前回の「千と千尋の隠された神」では、この映画の舞台モデルがどの土地であったのか、別のアニメ映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」(以下「打ち上げ花火」と記述を省略)との構図の類似点から考察しました。
その結果、「千と千尋の神隠し」(以下「千と千尋」と記述を省略) に登場するあの水上を走る海原電鉄と同じ構図が「打ち上げ花火」でも見られ、後者の方には明確に「千葉県飯岡町」(現旭市)との記述がシーンに登場することから、前者もおそらく同じ土地を指しているだろうと見たのです。
加えて、「千と千尋」の背景にそれとなく描かれる椿の花が、江戸時代まで旭市の大部分を海水で覆っていた「椿海」(つばきのうみ)を暗示していると解釈し、ここで、
「千と千尋」のモデル地は千葉県旭市周辺
ではないかとしたのです。今回はまず、この仮定が正しいかどうか、別の視点から検証します
■油屋の謎と銚子
前回の記事の最後に、千葉県旭市(あさひ)および東に隣接する銚子市(ちょうし)の産物を調べておいてくださいとお願いしていましたが、結果は如何だったでしょうか?
銚子については既にご存知の方が多かったかもしれませんが、銚子と言えば、全国でも有数の醤油の生産地で、ご家庭でもお馴染みの「ヤマサ醤油」そして「ヒゲタ醤油」の生産工場があります。ちなみに、やはり醤油メジャーの「キッコーマン」は、同じ利根川添いの千葉県野田市に大工場を構えています。
この中ではヒゲタ醤油が一番歴史が古く、他の2社もヒゲタ醤油をそのルーツに持つとのこと。そのヒゲタのルーツはさらに遠く紀州にまで遡るようですが、ここでは深追いしません。
いきなり醤油の話になってしまいましたが、「醤油」の文字をよく見てください。そこには「油」の字が使われていますよね?
「千と千尋」で千尋が世話になったお湯屋さんの「ゆや」は、何故か「湯屋」ではなく、「油屋」と記述されたことを思い出してください。このような一見訳の分からない設定には何か意味があるはずで、その一つとして考えられるのが、物語の舞台が千葉県東総地区(旭、銚子、東庄周辺)を暗示するためであるという考えです。
実は、さきほどの「椿」も種子から油の取れる木であり、酸化しにくい椿油は化粧用の髪油として重宝されている方も多いのではないかと思います。
ここで、映画に登場する「油」という不可解な文字が、映画の設定舞台と考えられる千葉県東総地区の「椿」という旧地名と、名産の「醤油」のキーワードで結ばれることが理解できると思います。
また、これは現地の人から聞いた話なのですが、銚子ではかつて紅花の栽培が盛んだったそうです。紅花と言えば「紅花油」の原料であることは説明する必要はありませんね。この「紅花」がまた意味を持ってくるので、これはちょっと覚えておいてください。
■銚子名物「灯台キャベツ」
メルマガ8月1日号では既に私の銚子経験を細かく書きましたが、実は、銚子については昔の仕事の関係で多少は詳しい方だと思っています。
銚子と言えば、醤油の他に銚子漁港で水揚げされる水産物が有名なのですが、春先に現地へ行くと「灯台キャベツ」というブランド名の春キャベツの生産が盛んなのです。
私も食べたことがありますが、柔らかくて、お浸しなどにするとたいへん美味しかったのを覚えています。
大地の上に幾つも聳えたつ発電用風車とその下に広がる緑のキャベツ畑のコントラストは他所ではなかなか見られない景色で、私にとっても思い出深い風景の一つです。実はこの風景がそのまま「打ち上げ花火」でも使われているのです。
ここまでしつこくキャベツの話を書きましたが、そこで「千と千尋」の次のシーンを見て欲しいのです。
ハクと千の二人は、豚に変えられてしまった千尋の両親を豚小屋の入り口から覗き込むのですが、背景に描かれた畑で育てられている農産物とは、そう
キャベツ
なのです。ここでもまた、千葉県東総地区を暗示する記号がしっかりと描かれているのです。
■養豚は旭の主力産業
前節で豚小屋の話を出しましたが、「千と千尋」の中で「豚」というシンボルは非常に大きなインパクトを以って記憶に残っているかと思います。
露店で料理を食べ続けた両親がみるみる豚に変わっていくシーンは子供にとってはかなりショッキングなものでしょうし、物語の最後に、たくさんの豚の中から両親を探し当てなければならないシーンなどは、思わず手に汗握ってしまうような展開です。
ところで、舞台候補地である旭市が、実は、養豚業が極めて盛んな地域であるとご存知だったでしょうか?
2016年の農業出荷額ベースでは、旭市の畜産業は千葉県内では断トツの1位で、全国自治体の中でも5位という高順位を占めているのです。そして、その内の半分以上をまた養豚が占めているのです。
これまでに、「椿」、「醤油」、「キャベツ」と映画の舞台地を特定するアイテムを見つけてきましたが、ここに来て「豚」までもがその中に加わることになったのです。
ここまで揃ったのならば、もうそろそろ結論を出してもよいでしょう。
映画の舞台は千葉県東総地区である
と。
■では油屋はどこなのか?
映画の舞台地が大まかに特定できたところで、いよいよ気になるのが、油屋のモデルがいったいどこなのかです。
これに関しては、映画の次のシーンが大きなヒントになります。
舞台地がだいたい旭・銚子近辺であると当たりが着いた時点で、私はすぐにここがどこか分かりました。現地を知らないとさすがにここは簡単に特定できないと思います。では、いったいどこであるのか、比較的よく分かる写真を下に示します。
写真に写るこの跨線橋、実は
猿田神社の参道
なのです。この地域内で他に該当しそうな所は見当たりません。映画シーンで油屋は赤い欄干の橋を渡ったその向こうにありましたから、必然的に
油屋のモデルは猿田神社
ということになるのです。そして、わざわざ説明する必要はありませんが、猿田神社の祭神はその名の通り、猿田彦なのです。なお、あくまでもこれは裏設定上のモデルであり、いわゆるビジュアル的なモデルとは異なることを改めてお伝えしておきます。
この猿田神社、既に「椿海とミヲの猿田彦」で登場しているのですが、ここに来て再びこの神社に注目することは、私にとっても驚きです。同記事では、実在しただろう高天原(たかあまはら)と関連して、猿田彦が宮を置いたという「ミオ(ミヲ)」の地が、実は小見(おみ)の地名が残る千葉県東総地区なのではないかとの推測を述べています。
さて、空前の大ヒットを記録した「千と千尋」と関東の東端に位置する猿田神社との間に、いったいどのような関係が見つけ出せるのでしょうか。
* * *
今回の記事の書き出しは、まるでアニメファンの聖地巡礼サイトのようになってしまいましたが、このブログの主眼はあくまでも日本古代史です。
「油屋」の設定が最後に千葉県銚子市の猿田神社であると分かったところで、いよいよアニメの中に巧妙に隠された日本古代史の分析が始まります。
なお、文中に出てきた「紅花」ですが、ここでもう一つのキーワードである「豚」と言葉を並べてみてください
紅花・豚
なんかこれに似た響きのジブリ映画がありませんでしたか?
紅色の土に隠れし鈴の乙女等
管理人 日月土
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